なんちゃって観劇日記

東宝ミュ生まれ・WOWOW育ち、地方都市に住むただの舞台好き。

【密やかな結晶】視聴感想

WOWOWにて視聴。感想というよりほぼ自分用メモになった。
途中から段階的にネタばれあり。

 

 感想(ネタばれなし)

怖かった。でも美しかったなぁぁぁ。

基本ストレートプレイですが、一部コミカルなミュージカルシーンもあり。

特殊な設定の人たちの、理解することがとても難しいお話。
ある歴史上の出来事をもとにしていると思われる場面は本当に怖かったです。

石原さとみさんは上手いですね!舞台作品では初見ですがとても良かった。
少しだけ声がかすれぎみだったかな。でもお芝居が素晴らしいので全く気になりませんでした。

鈴木浩介さんもお上手。最初はちょっぴり年齢差が気になったのに、終盤は何の違和感もなかったです。

あらすじ(公式)

海に囲まれた静かな小島。この島では“消滅”が起こる。香水や鳥、帽子など、様々なものが、“消滅”していった。
“消滅”が起こると、島民は身の周りからその痕跡を消去し始める。
同時にそれにまつわる記憶も減退していく。

『わたし』は、この島に暮らす小説家。近所に住む『おじいさん』とお茶を飲みながら話をするのが日課という静かな毎日。おじいさんは、わたしのことを赤ん坊の時から見守り続けているが、その頃からずっと若者の容姿をしている。わたしの母は秘密警察に連行され死んだ。鳥の研究家だった父も亡くなり、おじいさんだけが心安らぐ存在だ。

この島にも、少数ではあるが記憶が“消滅”しない人、記憶保持者がいる。彼らはそのことを隠して生活しているが、秘密警察は手を尽くし、彼らを見つけて連行する。島民が恐れる記憶狩りだ。

(中略)

秘密警察の苦悩、R氏の抑圧感、おじいさんのジレンマ、わたしの恐怖…
様々な想いを抱えた島は、“消滅”がさらに増えていく。4人はどう生きるのか。最後に消えるのはいったい何なのか―

あらすじ(ラスト以外のネタばれあり)

記憶保持者(レコーダー)であるR氏(という役名があったのを後から知りました。鈴木浩介さん)は、秘密警察から隠れるために「わたし(石原さとみさん)」の家の隠し部屋に身を寄せることに。

「わたし」とおじいさん(村上虹郎さん)とR氏は、慎ましいながらも幸せな生活を送ります。

しかし、レコーダーを匿っているのではないかと疑う秘密警察のボス(山内圭哉さん)が3人の家で暴力の限りをつくし、危うい状況にいることを実感。
三人は、それぞれに苦悩します。

おじいさんは「わたし」とR氏が惹かれあっていることに気づき、見守りながらも、R氏の影響を受けている「わたし」が秘密警察に狙われるのではないかと恐れます。

R氏は、「わたし」の心の衰弱(“消滅”の影響を受けてしまうこと)を防ごうと試みますが、襲撃を受けてからは自分を責め始めます。

自分さえいなければ、「わたし」やおじいさんが危険な目に遭うことはなかった。
冷たい壁に閉ざされて、外の世界を知ることもできない。
小説が“消滅”した今、編集者である自分に生きている価値などない。
いっそ自分が“消滅”してしまえばいいのに!
と、追い詰められます。

「わたし」は、自分にはR氏が必要だ、隠し部屋もR氏も消滅なんてしない、と慰めます。

しかし、その後も“消滅”はどんどん進んでいき、ついに左足が“消滅”してしまう。
R氏がいくら「左足はちゃんとあるじゃないか」と言っても、その言葉は届かない。
自分の心と体が少しずつ“消滅”していくことになすすべもなく、“消滅”したくない!といいながら、確実にその時に近づいていきます。

一方で、国際警察のボスにも自身の“消滅”の予感が訪れ、ある行動を起こします。
それにより、R氏は一つの真実を知ることになります。

また、体のあちこちが“消滅”した秘密警察自身も、自分の職務について疑問を持ち始めます。

すべてが“消滅”したとき、一体何が起こるのか。

感想(ネタばれあり)

劇中にもセリフがありましたが、記憶保持者(レコーダー)側である私には、「わたし」「おじいさん」のことは理解できません。できませんでした。

が、消滅とは何なんのか?この舞台で描きたいものは何だったのか?という部分では、とても心動かされるものがありました。
あらすじにあるような定義された“消滅”と、舞台全体で描いている、もっと広い含意のある消滅

セリフはニュアンスです。

“消滅”していないのに、まるで“消滅”したようなもの

「何も言えないのね!口はついているのに、いつのまにか口が消滅してしまったのね!」

秘密警察に連れていかれる人々を目の当たりにして、でも何の異論も訴えられない「わたし」の言葉。

“消滅”したけど存在するもの

「どうして僕をかくまってくれたの?」
「私の小説のファンだから」
「それだけ?」
「一体なんといえばいいのかわからない」
「『あいしてる』ずっと昔に“消滅”してしまった言葉だよ」

言葉として“消滅”してはいても、その気持ちだけは残っていることがある(のかもしれない)。という場面ですね。
それとも、R氏との交流によって影響を受けただけで、本来は気持ち自体も消えてしまっているのかな。

最後のほう、泣きながら「これが悲しいってこと?」というシーンも、感情はあるのに、その言葉、概念が“消滅”してしまっている状態だったのだと思います

“消滅”していないのに、なくなったもの

「わたし」が小さいころ習っていたオルガンは、“消滅”はしていないのに、気付いたらなくなっていた。
“消滅”しなくても、なくなっていくものはたくさんある
と「わたし」が気づくシーンなのですが。

幼少期を思い出してうれしそうな「わたし」とは反対に、ここから「わたし」がより“消滅”を受け入れていってしまう予感がする、辛いシーンです。

存在しているのに、“消滅”したもの

「わたし」が突然「左足が消滅してる!」と言い出したときの、レコーダー側の戸惑いと絶望感、やばかった…。
だって、あるのに。
左足、あるじゃん!
目の前にあるのになんでないっていうの?

これ、構造だけで考えれば上に書いた『“消滅”したけど存在するもの』と同じなんですが、意味合いが正反対なんですよね。

上の方では、「あいしてる」「悲しい」といった概念は“消滅”したようだけど、実は感情そのものは存在しているんだ!
もしかしていつか2人はわかり合えるのでは?と観客に思わせておきながら。

突然、自分の左足をまっすぐ見て「左足が消滅してる!」なんて言い出すんです。
爪、足の指、ふくらはぎ、太もも…と丁寧にたどっても、「わたし」にはそれがわからない。“消滅”したものは感じられないと言う。

そんな人と分かり合えるわけがないじゃないですか。絶望。

“消滅”とは?

“消滅”の影響を受ける人にとっては、絶対的で、一度失われたものについては記憶すらなくなっていく。
香水が“消滅”したら、香水の香りをかいでも何も感じなくなる。
自分たちがいつ“消滅”するのかも何となく感じられる。

でも、永遠に“消滅”しつづけるわけではないし、戻ってくることもある?

一番最初に“消滅”したという、バラの花びらが吹き込んでくるラストシーン。
からの、バラの花びらが戻ってきたように、「わたし」が戻ってくるのを待ち続けるR氏。

“消滅”の影響を受ける人間と受けない人間は、いつか一緒に幸せに暮らせるんでしょうか。

もっと広い意味の、消滅とは?

“消滅”に関係なく、なくなるものもあれば、なくならないものもある。

「私が死んだら、お嬢様は私のことをお忘れになるんでしょうか?消滅してしまうんでしょうか?」
というおじいさんの言葉は印象的でした。

記憶にある限り消滅なんかしないし、“消滅”したとしても生きた証(小説)は残せるし、“消滅”したものだって戻ってくることもある。

漠然とですが、希望のあるラストだったと思います。

元となったある歴史上の出来事について

ゲシュタポ怖い。

デフォルメされたりポップな音楽で彩られたりしてはいるけど、ストレートにナチスユダヤ人弾圧を表現してるので、妙にリアルで怖かったです。
舞台上の絵空事じゃなく、本当に世界のどこかで起こっているんじゃないかと思わせられる恐怖がありました。

心が衰弱していく、というのは、ナチスに熱狂して、あるべきものを見失っていく民衆、ということなのかしら。

おじいさんをリンチした人たちが言ってた「我々の暮らしが楽にならないのはレコーダーのせい」みたいなやつって、どうして?

本編で理由(建前=民衆が信じる理由)は特に説明されていなかったように思うのですが、理不尽に弾圧を受けていると強調するためにあえて説明していないのでしょうか。
ユダヤ人の場合は、彼らが我々から搾取しているため、っていうような理由(建前)が一応つけられてますよね。もちろん事実ではないですが。

理由(本音=政府の都合)としては、第一次世界大戦で疲弊したドイツ国民の不満が背景にあり、スケープゴートとしてユダヤ人が槍玉に上がったと認識しているのですが、この島でも何か本当の目的があったのでしょうか。

秘密警察がどうしてレコーダー狩りをするのか、いると何が不都合なのか、もしくは何から目をそらさせたかったのか、全くわかりませんでした。

たぶんわからないのが正解なんでしょうね。秘密警察の人たちも疑問を感じて物語は終わってるし。
何のためにこんなむなしいことをしているのか、と観客に思わせようとしているのだと感じました。

でもせめて、最初の理由は教えてほしかったなという気もします。
最初はこんな理由があったけど、今となってはなんで続けてるんだっけ…?みたいな動きがあったら、より深いドラマになったんじゃないかなと思います。

いや、私が理解できてないだけかもしれないけど。

その他メモ

山内圭哉さん、不器用でぶっきらぼうな兄役、すごく良かった。最後、兄が出て行ってからR氏が酒に口をつけるのがまた切ない。

ラムネ=メタマクのキャラメル

おじいさんが帰ってこなくて「わたし」が取り乱す場面、「何か心当たりはないの?持ち物検査されたとか。」に対して「ないわ」っていうのは、「わたし」はラムネを渡したこと覚えてないの?レコーダーじゃないから記憶から消えてしまったってこと?

「密やかな結晶」公演概要

収録日・収録場所
2018年2月/東京 東京芸術劇場 プレイハウス

出演
石原さとみ
村上虹郎
鈴木浩介
山内圭哉
ほか

企画制作
ホリプロ

詳細はこちら
https://www.wowow.co.jp/detail/113065/001